2008年5月11日

冬の巡礼|志水辰夫

●書名:冬の巡礼
●著者:志水辰夫
●版元:角川文庫
●出版:97年10月(単行本94年10月)
●定価:546円(税込)
●評価:400円以下なら

列車を下りたのは3人。わたしをのぞくふたりは女子学生と五十年配のショールをかぶった女性で、いかにももの慣れた足取りで駅舎を出るとすぐさまいなくなった。<略>誰もいない待合室の中で石油ストーブが燃えていた。<略>駅周辺にはひとっ子ひとり見あたらなかった。 (3-4ページ)
この冒頭の描写で、私はあいづ球場に行ったときのことを思い出しました。私が下りた無人駅は会津鉄道の南若松駅でした。季節は冬ではなく夏。下りたのは私を含めて2人です。第1試合に間に合うように球場に着くにはこの電車しかないはずなのに、始発駅の西若松駅ではそれらしい乗客が見当たりませんでした。

私は不安に襲われていました。 実は私は地図を忘れていたのです。第1試合は10:30開始予定です。南若松駅到着は10:03で、駅から球場まではまっすぐ約1キロですから、場内アナウンスにちょうど間に合う頃合いです。時間帯からして、どうせ乗客の誰かしら球場へ行くに違いないと踏んでいたら、とんでもない話です。

一緒に下りたお爺ちゃんは、駅前広場?で周辺施設の案内板を探している私を追い越して軽やかな足取りでずんずん進んでいきました。駅前の通りは交通量が比較的多いのですが、車の往来は激しいのに、歩いている人がいないのです。まあ、田舎ではよくあることです…。

駅前には店もないので、誰にも聞けません。あいづ球場には照明設備がありませんから、照明灯を頼りに進路をとることもできません。駅に引き返して待合室を覗いてみましたが、電車は出たばかりです。誰もいなくて当然です。室内の掲示物では球場の場所はわかりません。私は1人取り残されたのでした。

困り果てていたら、高校生らしい白シャツを乗せた貸切バスが踏切を越えて右側に進んでいくのが見えました。迷っていても仕方がないので、あとを追うことにしました。しばらく歩くと、向こう側からチャリが来るのが見えました。これを逃してはなりません。私は歩を早めました。なんと、舞い降りたはずの天使は20m先の信号で右折してしまったのです。

「おーい、待ってくれ~」と叫びたいのをこらえていたら、道路の反対側の家で庭の草むしりをしているお婆ちゃんが目に入りました。天使は身近なところにいたのです。赤信号で停車した車を縫って、私は反対側に渡りました。言葉はあまりよくわかりませんでしたが、指さした方向は私の判断と同じでした。

さて、この小説は野球とはまったく関係ありません。志水辰夫を最初に読んだのは『飢えて狼』だったはずです。私の中では、泡坂妻夫、天藤真と並んで国内ミステリーのビッグ3であって、2人を出した以上は志水辰夫も出さざるを得ないわけです。 ちょうど先日、まだ読んでいない本書を古本屋で見つけました。250円でした。

主人公の「わたし」は菅井工務店の契約社員です。下請けの城南建設作業員・坂倉博光が謎の死を遂げます。特別に親しかったわけではないのに、坂倉は死の前日、「わたし」に実家の住所を記したメモとともに位牌を預けていました。

「わたし」はその位牌を坂倉の母に届けるべく、雪深い飛騨高山の無人駅に下り立ったわけです。「わたし」はそこから命の危険にさらされますが、同じように無人駅で下りても位牌を預かっていなかった私には何事も起きませんでした。私はただ青春18きっぷを使いこなしただけでした。

この小説では「わたし」の勤務先の社長が魅力的な人物として描かれています。

喧嘩やもめごとは大好きで、いまでも仲裁など頼まれたら喜んですっ飛んで行くし、秩序や抑制や努力など大嫌いという連中を仕切らせたらそれは大変なものだ。 (180ページ)

事件を匂わせただけで、隠匿されている金の匂いを嗅ぎ取ってしまったのだ。本人はその金が欲しいとか、分け前に預ろうととかいう魂胆があって出しゃばってきたわけではない。こういう話になるとわくわくして、自分も一枚加わりたいだけなのである。だからわたしのすることにブレーキは絶対かけない。人を焚きつけたり、あおったり、事件が面白くなればなるほどうれしがる。もしそれで私が監獄へ放り込まれる羽目になったとしても、彼なら赤飯を炊いて送り出してくれるにちがいなかった。 (196-197ページ)

何を思ったか、独りごとみたいな声でつぶやいた。「女はいいよ。男の最後の逃げ場は女しかないんだ」
 名古屋にやってきた正体を見たと思った。このじいさん、まだまだ枯れていなかったのだ。この脂ぎった顔は、現役で通用している何よりの証拠だった。
 (206ページ)
この社長さんが事件の解決に活躍するのかと思っていたら、まったく期待はずれでした。志水辰夫の小説はハッピーエンドとは限りません。そうでないことが多いかもしれません。まあ、結末は書きませんが…。

2008年4月21日

2008公認野球規則

●書名:2008公認野球規則
●編集:日本プロフェッショナル野球組織/日本野球連盟/日本学生野球協会/全日本大学野球連盟/日本高等学校野球連盟/全日本軟式野球連盟
●版元:ベースボールマガジン社
●出版:08年04月第1刷
●定価:1000円(税込)
●評価:400円以下なら

阪急京都本線と千里線が交わる淡路駅には1番ホームがありません。あるのは2~5番ホームです。もちろん当初は1番ホームも存在したわけですが、廃止に伴い1番ホームの名称も消滅したそうです。繰り上げをおこなわず欠番としたのは混乱回避が主目的だったようです。

法律の条項も同じ考え方です。たとえば全17条の法律から第4条を削除した場合、第4条は欠番となり、繰り上げはおこなわれません。改正前も改正後も第5条は第5条のままです。第5条の次に新条項が追加されても、それが「第5条の2」となるだけで、第6条は第6条のままです。

2008年の『公認野球規則』では、記録に関する第10章で数カ所の改正がありました。旧10.05と10.06が統合されて新10.05になり、以下の条項はすべて繰り上げられました。旧10.13と旧10.14も統合されたため、去年までの10.15は今年から10.13になりました。おまけに、旧10.19(f)が新10.18になりましたから、旧10.20は新10.19です。

どちらが「美しい」かと言えば、後者に決まっています。ただし、それを学ぼうとする者にとっては迷惑な話です。去年までに書かれたものを読むときは、面倒な置き換えをしなければならないからです。実は「セットポジション」が受けた影響は甚大で、20ページほどに手を加える必要があります。

『公認野球規則』が市販化されたのは2006年ですが、私は1992年版から持っています。この間、第10章の改正はほとんどおこなわれておらず、事実上今回が初めてと言ってもいいくらいです。まあ、『公認野球規則』の改正自体はあちらで決めたことですので、日本の規則委員会に責任はないのですが…。

さて、08年版『公認野球規則』の「はしがき」には次のような記述があります。

昨年のプレイに関する規則の大改正に引き続き、今年は記録に関する規則が整理され、長年運用で処理したり、曖昧な解釈のまま放置されていた懸案事項がひとまず片付き、規則書の大掃除は一段落といったところか。

きっと、この「はしがき」を書かれた方はマゾの性癖があるに違いありません。これで「一段落」なら、私はまだ当分アホだのポチだのと言えるわけです。はい。

2008年4月17日

太田裕美♪九月の雨

YouTubeには、著作権法に抵触する(と思われる)動画が多いのですが、現行法ではそれを見ることは違法行為ではありません。で、私はBGMとして大いに利用しています。まあ、あえてリンクしないのが私の良心というもので…。

今年の3月1日以降、再生リストに入れたあとに削除された動画をチェックしてきました。4月半ばにして64曲を超えましたので、トーナメントで初代チャンピオンを決めようと思います。(アカウント停止であれ自主的な削除であれ)削除を把握した順に歌手名、曲名、再生回数、UP年月日をチェックしておき、二者択一のノックアウト方式で63回好きなほうの曲を選ぶわけです。

  • 1キャンディーズ♪ 哀愁のシンフォニー 13822回 2007/06/05
  • 0和田アキ子♪あの鐘を鳴らすのはあなた 18464回 2008/01/14
  • 2小林旭♪ 熱き心に 12154回 2008/01/14
  • 0森高千里♪私の夏 12161回 2007/10/19
  • 0山下達郎♪クリスマスイブ 785216回 2006/11/19
  • 3ふきのとう♪初恋 3214回 2008/01/06
  • 0篠原涼子♪恋しさとせつなさと心強さと 98529回 2007/05/01
  • 1夏川りみ♪涙そうそう 503300回 2007/03/24
  • 4松田聖子♪小麦色のマーメイド 7549回 2007/11/20
  • 0岡崎友紀♪私は忘れない 38887回 2007/04/15
  • 0石野真子♪わたしの首領 12911回 2007/10/07
  • 1岡田有希子♪くちびるNetwork 6394回 2007/10/07
  • 0おニャン子クラブ♪セーラー服を脱がさないで 10900回 2007/10/07
  • 1松本典子♪パステルラブ 4693回 2007/10/07
  • 2渡辺美里♪My Revolution 729回 2007/10/07
  • 0小林旭♪熱き心に 2518回 2008/02/24
  • 0小林旭♪昔の名前で出ています 1299回 2008/02/24
  • 1渥美二郎♪夢追い酒 625回 2008/02/21
  • 0岩崎宏美♪聖母たちのララバイ 2689回 2007/10/07
  • 2浅田美代子♪赤い風船 11102回 2007/10/07
  • 0ふきのとう♪白い冬 65171回 2007/09/13
  • 3竹内まりや♪人生の扉 65715回 2007/08/10
  • 1堺正章♪さらば恋人 37490回 2007/11/19
  • 0中島みゆき♪地上の星 298525回 2007/05/20
  • 1はしだのりひことクライマックス♪花嫁 109948回 2007/08/19
  • 0小椋桂♪さらば青春 46407回 2007/10/23
  • 0大滝詠一♪幸せな結末 92269回 2007/09/27
  • 5大滝詠一♪ペパーミント・ブルー 43656回 2007/08/06
  • 0N.S.P♪さようなら 10289回 2008/02/05
  • 1あおい輝彦♪あなただけを 9813回 2007/12/25
  • 0平井堅♪大きな古時計 69764回 2007/10/06
  • 2渚ゆう子♪京都慕情 29007回 2007/11/27
  • 1本田路津子♪耳をすましてごらん 9215回 2007/12/25
  • 0鳥羽一郎♪兄弟船 16365回 2008/01/12
  • 0大川栄作♪さざんかの宿 7027回 2008/01/22
  • 2酒井法子♪世界中の誰よりきっと 4627回 2008/01/12
  • 0松田聖子♪ 抱いて・・・ 95763回 2007/07/12
  • 1松任谷由実♪真夏の夜の夢 113601回 2007/07/07
  • 4松任谷由実♪瞳を閉じて 113982回 2007/07/07
  • 0松任谷由実♪中央フリーウェイ 122235回 2007/07/24
  • 1松田聖子♪夏服のイヴ 16636回 2007/07/06
  • 0松田聖子♪螢の草原 15071回 2007/07/11
  • 0松田聖子♪Rock'n Rouge 61968回 2007/07/12
  • 2松田聖子♪硝子のプリズム 9787回 2007/07/25
  • 3松田聖子♪Kimono Beat 13096回 2007/07/05
  • 0松田聖子♪小麦色のマーメイド 5957回 2008/01/09
  • 0松任谷由実♪やさしさに包まれたなら 249401回 2007/07/21
  • 1松任谷由実♪ひこうき雲 118488回 2007/08/12
  • 6太田裕美♪九月の雨 45056回 2007/08/02
  • 0浜田省吾♪風を感じて 12640回 2008/01/10
  • 0ふきのとう♪白い冬 1503回 2007/12/20
  • 1岸田智史♪きみの朝 9871回 2008/01/09
  • 1岡本真夜♪TOMORROW 34109回 2007/12/31
  • 0森高千里♪私の夏 4389回 2008/02/09
  • 0丸山圭子♪どうぞこのまま 11549回 2008/01/12
  • 2トワ・エ・モア♪虹と雪のバラード 24445回 2008/01/11
  • 3太田裕美♪九月の雨 2580回 2008/03/03
  • 0太田裕美♪雨だれ 4044回 2008/02/10
  • 0小柳ルミ子♪わたしの城下町 7449回 2008/01/08
  • 1狩人♪あずさ2号 37141回 2007/12/26
  • 0野口五郎♪私鉄沿線 18072回 2008/01/09
  • 1堺正章♪街の灯り 24017回 2008/01/06
  • 2ふきのとう♪やさしさとして想い出として 4508回 2008/02/13
  • 0ふきのとう♪春雷 6943回 2008/02/13
削除されても代わりの動画がすぐに見つかるケースのほうが多いので、削除→改めて別の動画を再生リストへ→それも削除、というパターンもあります。結果として、複数エントリーの「九月の雨」が準々決勝第4試合で激突?しました。

ベスト4のうち3曲は松本隆でした。「九月の雨」は77年7月発売の「こけてぃっしゅ」からシングルカットされ、タイトルに合わせて9月にリリースされていますが、B面の「マニキュアの小瓶」はいかにも松本隆の世界です。

77年と言えば、日本シリーズ第4戦です。1点を追う阪急ブレーブスは、9回表二死無走者からウイリアムスの代打・藤井が四球、代走・簑田が二盗、中沢の代打・高井の左前打で簑田が本塁へ芸術的スライディング(同点)、大橋が安打で続き、山田が2点タイムリー二塁打(逆転)、福本敬遠のあと、大熊のショートゴロを上田がタイムリーエラーという、アンチGが狂喜乱舞しそうな試合でした。まあ、私はTV観戦でしたけど…。

さて、「九月の雨」は当時それほど好きな曲ではありませんでした。なにしろ公園通りに行ったことのない田舎の高校生です。ワイパー越しにイルミネーションが渦巻くことなどありません。そもそもタクシーに乗る機会がないのです。

当時はもちろん携帯などありません。電話するなら、親に呼び出してもらうわけです。肩の近くで笑っているのは兄弟に決まっています。高校生にはリアリティのない歌詞でした。

1番の歌詞では冷たかった九月の雨が、2番の歌詞では優しい雨に変わります。これは2通りの解釈ができそうです。私は〔B〕を支持します。
 〔A〕冷たい雨が本当に優しい雨に変わった
 〔B〕雨自体は変わらずに降っているが、受け止める側の心境が変わった

この曲では、タクシーに乗り込んだ女が目的地に向かう途中の心境が歌われているのであって、目的地に着いたのかどうか、そして“対決”に及んだのかどうかは歌われていません。

…と書いてきて、「九月の雨」は「冷たい雨」のアンサーソングではないのかと、ふと思ったのでした。バンバンの「いちご白書をもう一度」は75年8月のリリースで、そのB面が「冷たい雨」です。76年4月にはハイファイセットがカバーしています。

だとすれば、「九月の雨」の「季節に褪せない心があれば…」は、やはり一種の反語的表現でしょう。「冷たい雨」は「いつか忘れたい」で終わります。本当に季節に褪せない心を持ってしまったら、そのほうが不幸に違いないと思えるからです。都合の悪いことは忘れるに限ります。

ところで、「九月の雨」の舞台であろう東京では、梅雨どきの6月より9月のほうが降水量は多くなっています。気温は9月のほうが高いのであまり冷たくはなさそうですが、6月にくらべると9月の雨は強い雨が多いようです。実際には9月の雨は優しい雨ではないのかもしれません。

実は、この「九月の雨」は私が2つの異なる再生リストに入れている曲であって、削除されたのは「九月的雨」のタイトルでした。中国語圏でUPされたのでしょう。お気に入りのほうは(まだ)無事です。

外部リンク
 気象庁>平年値(東京、降水量)
 goo音楽>九月の雨 - 太田裕美冷たい雨 - ハイ・ファイ・セット

2008年3月19日

ベースボール・クリニック 2008年4月号

●書名:ベースボール・クリニック 2008年4月号 
●版元:ベースボールマガジン社
●出版:08年03月(月刊/17日発売)
●定価:890円(税込)
●評価:定価相応

例年のように、アマ規則委員長の麻生紘ニ氏による08年野球規則改正についての解説が掲載されています。発売されたばかりの月刊誌ですので、関心のある方は書店でお買い求めください。

今回の改正で、最大の注目点は7.08(e)です。冒頭で取り上げられている“例題”は、私も某掲示板において(回答を)引用したことがあります。こんな問題です。

 ★一死一・三塁でライト線にヒット。
 ★三塁走者生還。一塁走者は二塁を空過して三塁へ。
 ★打者走者は三塁送球を見て二塁を狙うがタッチアウト(二死)。
 ★空過に気づいていた守備側が二塁でアピール。
 ★審判は空過を認めてアウト(三死)。

この場合のスリーアウト目となるアピールアウトは、はたしてフォースアウトなのかそうでないのか、つまり得点は認められるのか認められないのかという問題です。もともとは、鈴木美嶺編『Q&A方式 101の実例野球ルール』(ベースボールマガジン社、85年)に掲載されているものです。美嶺さんは、「二塁でのアピールアウトは、フォースアウトではない」と回答しています。

私がこの(一連の)問題をWebに投げたのは05年12月のことでした。今回、規則委員会の「統一見解」が示され、この事例はフォースアウトで無得点ということになりました。麻生氏は本件改正に至る経緯を説明したあと、次のように記述しています。

 やれやれ、長年の疑問がこれで解決と思っていましたら、空過のケースとは異なりますが、次のような質問が寄せられました。よく勉強しているなと驚きました。
 <略>
 例題2<略>打者が今度は外野飛球を打ち上げた。捕球されそうなので、一塁走者は一塁ベースの方へ戻っていた。しかし、外野手はその飛球を落としてしまった。このとき、打者走者は一塁を回って打球を見ていた一塁走者を追い越してしまい、追い越しアウトになってしまった。(37ページ)
この例題2は「敗れたり?亜細亜」のプレイです。今回の改正が発表された直後、私はほとんどリアルタイムでこの突っ込みを入れましたが、もともと私にとってはこちらが出発点でした。もっとも、それは読者の方から頂戴したメールがきっかけになっています。というより「敗れたり?亜細亜」自体が別の方から頂戴したメールによるものなんですが…。

さて、05年12月の私の投稿は、新年に入って私が忙しくなったので、自分から打ち切りました。ただし、本件はゾンビのような生命力を持っていたようで、ほどなく別の複数の掲示板で復活しました。そして複数のルートで規則委員のもとに届いたのです。

私はメールをきっかけに調べたことを集約しただけで、それ以外には何のアクションもとっていません。震源地に御せられているようですが、増幅しただけであって震源そのものではありません。

ところで、麻生氏は本項を次のように結んでいます。

規則というのはすべてのプレイを包含、もしくは表現することは不可能で、あちこちに規則の盲点が潜んでいるため、条文の字句の背景まで理解しようと努めることが大切です。(38ページ)
改正後の7.08(e)は次のような文言になっています。
7.08 次の場合、走者はアウトとなる。
(e) 打者が走者となったために、進塁の義務が生じた走者が次の塁に触れる前に、野手がその走者またはその塁に触球した場合。(このアウトはフォースアウトである。)
 ただし、後位の走者がフォースプレイで先にアウトになれば、フォースの状態でなくなり、前位の走者には進塁の義務がなくなるから、身体に触球されなければアウトにはならない。
<略>

これを読むと、「例題2」のケースでは第3アウトがフォースアウトでないことから、二塁はフォースプレイだと解釈する人のほうが多いでしょう。解釈が統一されただけで、誤解を与えない表現に改める余地はまだあるわけです。

「照会したらこういうことでした」はポチのやることです。麻生氏の次の世代には、記述上の不備を(もちろんアメリカを含めた) 諸外国とともに直してもらわねばなりません。いつまでもポチであってよかろうはずがありません。

2008年2月15日

白球の王国|トマス・ダイジャ

●書名:白球の王国
●著者:トマス・ダイジャ (訳:佐々田雅子)
●版元:文春文庫
●出版:00年07月第1刷
●定価:950円(税込)
●評価:200円以下なら

638ページの長編小説です。古本屋で105円(税込)でした。ページ単価は0.16円、値引率なら89%です。

満塁の走者を一掃する逆転タイムリー二塁打を期待していたわけではありません。前進守備の内野手の頭をワンバウンドで越える渋いヒットでよかったのです。が、現実は甘くありませんでした。ブックオフさんの価格設定はきわめて適正でした。

本書のカバー裏表紙には、あらすじが次のように記されています。触手が伸びるように書いてあるのです。戦争と野球を絡めたワクワクドキドキの物語ではないか、と…。

1864年5月、南北戦争末期。除隊まで18日を残した北軍第14ブルックリン連隊の兵士たちは、倦怠と恐怖と疲労に包まれていた。息抜きにキャッチボールを始めた彼らの前に突然、南軍兵士が現れ、試合を申し込まれる。戦場に舞う白球を追う両軍兵士の間に、いつしか奇妙な友情が……。戦争の悲劇、青春と野球を謳いあげる感動大作

「大作」であることは間違いありません。「戦争の悲劇」もくどいほど描き込まれています。ただ、申し訳ありませんが、私は「感動」には至りませんでした。とはいえ、いくばくかの価値はあります。

<略>高め、低めは要求できるが、投球を待たせることはできない。いい球がきたらストライク。故意の悪い球が3つきたら、バッターは一塁にいける。ブルックリンじゃ、今年はそういうふうにプレイしてます」
「わかった」
ニュートはもう1つ思いついた。「フライゲームにしましょう」
「それは……?」
「アウトにするにはフライの打球はじかに捕らなければならないというものです」

<略>
ピッチャーズボックスとホームプレート間45フィートとベース間90フィートの歩測が始まった。 (142-143ページ)

本書では数度にわたって「ピッチャーズボックス」が出てきます。初期の頃はサークルではなくボックスだったわけです。ちなみに、投手プレートは19世紀末に採用されており、南北戦争当時はありませんでした。

塁間の90フィートは今と変わりませんが、今では投本間60.6フィート(18.44m)です。直径18フィートのマウンドの中心は本塁から59フィートですから、マウンドの本塁寄りは本塁から41フィートとなります。

翻訳小説を読むときは、スピードが鈍ります。登場人物の名前を覚えきれないのです。本書では分速1ページに達しなかったのではないかと思われます。つまり、優に10時間つきあったことになります。全体を通じて退屈な小説でしたが、ラスト近くになって、いつ始まるかわからない(銃による)攻撃という時間との争いがサスペンスとして盛り込まれています。ここが唯一の見せ場かもしれません。

 二死。満塁。点差は1。9回裏。ライマンが打席に立った。
 少年たち――そして大人たち――は、そのような瞬間を夢には見ても、現実にめぐりあうことはめったにはい。だが、めぐりあえば、おのれをさらすことになる。9回裏、1点リードされて満塁の場面で打席に立つ人間には、失敗すれば弁解の余地はないということは自ずから明らかだ。成功すれば講釈の要はないというのと同じことだ。9回裏に逃げ隠れは許されない。自分の体が、そして頭が、どこまで強靱かを知ることができる。
 (624ページ)

ちなみに、私のなかでは、戦争を描いた小説としては大岡昇平の『野火』が筆頭です。南北戦争当時のアメリカの総人口は3000万人とも3500万人とも言われていますが、鳥取県の人口より多い62万人もの戦死者を出したそうですから、50人に1人が犠牲になったことになります。

2008年1月26日

パ・リーグ審判、メジャーに挑戦す|平林岳

●書名:パ・リーグ審判、メジャーに挑戦す
●著者:平林岳
●版元:光文社新書
●出版:07年03月第1刷
●定価:777円(税込)
●評価:400円以下なら

ちょっと因縁のある本です。実は、新刊で買おうとしたとき、カバーの折り返し部分に記されている「問題」が目に入りました。

【問題】
あなたは三塁を守っています。
試合序盤、スコアは1対1の同点。
ノーアウトで、ランナーが一塁と三塁にいます。
バッターがゴロを打ち、打球はあなたの前に飛んできました。
三塁ランナーは本塁に走りました。
バックホームは間に合いそうです。
どこに送球しますか?

私はこれが「問題」になるほうがおかしいと思ってしまったのでした。同点の最終回裏ならバックホームしかありませんが、同点の序盤ならゲッツー狙いの二塁送球でしょう。

本塁でアウトを1つとったところで、走者を二塁と一塁に残すことになります。一死一・二塁ではピンチをしのいだことになりません。引き続き大量失点のリスクを背負うだけです。

私の集計では、無死三塁53例のうち85%が得点に結びついています(→「先頭打者と打ちとれ!」)。また、無死満塁314例のうち無得点に終わったのは14.6%に当たる46例です(→「大須賀」)。

いくら序盤といえども、1点を惜しんで大量失点を招くと劣勢を挽回するのは大変です。序盤の1点ぐらいくれてやればいいのです。三塁走者など無視してゲッツーをとり、二死無走者にもっていくのがセオリーというものだと疑いもなく私は考えています。

この【問題】の答えは本書冒頭に示されています。著者によると、私の考え方はアメリカ流であって、日本ではバックホームなのだそうです。まあ、たしかに一死または無死で走者が三塁にいるとき、むやみに前進守備を敷くチームはあります。13点差で負けているコールド寸前の5回に前進守備を見たときは目を疑いました(高校野球の話)。

アマチュアではありがちですが、プロ野球なら、それほどでもないのではないかと思われます。「後半勝負」のゲームでは、スワローズが1点ビハインドの4回表無死一・三塁で6-4-3の併殺を完成させました(なぜか三塁走者は走りませんでしたが…)。

ちなみに、「併殺崩れ」で検索してみると、意外な場面でのゲッツー狙いもあるようです。

  • 06/06/14のE×T、同点の10回表一死満塁から今岡の内野ゴロ併殺崩れで勝ち越し
  • 01/07/25の専大北上高×盛岡大付高、7回裏一死一・三塁から併殺崩れで先制
  • 07/05/23のBs×C、2点ビハインドの3回表一死一・三塁から喜田の二ゴロが併殺崩れ
  • 07/09/13のE×Bs、同点の9回裏一死満塁から山崎武の遊ゴロ併殺崩れでサヨナラ

あいにく序盤の無死一・三塁は見つかりませんでした。満塁の場面でゴロになれば走者はスタートですから、一・三塁とは状況が異なります。それにしても、高校野球の(県予選)決勝戦で両チーム無得点の7回にゲッツー狙いとはいささか驚きです。

試合の序盤、同点、ノーアウト一、三塁で、サードゴロ。ここでバックホームするのが日本の野球の価値観であり、5-4-3のダブルプレーを狙うのが、アメリカのベースボールの価値観です。 (21ページ)

まあ、私は日本の野球しか知りません。著者の指摘は的を射ているかもしれませんし、そうでないかもしれません。私は買うつもりで手にとった本書を静かに書棚に戻したのです。先日、古本屋に350円で出ていましたので買っておきました。

ところで、日本野球界のプロ・アマ関係はいびつです。プロ側がアマ側に遠慮する場面は数多く見られます。

 斎藤佑樹投手の場合、もちろん不正投球などしておらず、汗を拭くためだけにハンドタオルを持っていたのですが、ルールでは、ピッチャーはハンドタオルを持ってマウンドに上がることはできないのです。高校野球の内規で許可されていたのかと思いますが――この点は定かではありません――、公認野球規則上は、前記のようになっていることを知っておいてください。
 甲子園で活躍する選手の姿に、子どもたちは憧れてまねをします。ハンドタオルを持ってマウンドに上がるのはルール上できないということを、子どもたちに教えてあげてください。 
(69ページ)

投手がハンカチをマウンドに持ち込むのは不可というのがプロ側の一致した見解ですが、社会人野球には次のような内規があります。

http://www.jaba.or.jp/shakaijin.html
11.「投手が如何なる異物でも、身体につけたり、所持すること」を禁止する規則の適用に際しては、「投球に影響を及ぼすようなもの」との解釈とし、監督より申し出があり、審判員が認めたものに限って許可することとする。(8.02(b))〔社〕

高校野球や東京六大学にこの種の明文化された内規があるのかどうか、私はまだ確認できません(「ない」とは断定できない、という意味です)。

平林氏は94年から02年までパリーグの審判でした。イースタンを含めて何度も見ていますが、とくに印象はありません(これは褒め言葉です。ほとんどの場合、審判が目立つのは「何か」があったときですから…)。

外部リンク
 オールドルーキーチャレンジ日記
 槙原寛己のベースボール見聞録>かつて巨人に元祖ハンカチ王子がいた