2007年12月9日

鈍い球音|天藤真

●書名:鈍い球音
●著者:天藤真
●版元:角川文庫
●出版:80年03月(81年07月4版)
●定価:340円(消費税法施行前)
●評価:定価以上

好きなミステリー作家を3人あげろと言われたら(国内)、私は躊躇することなく志水辰夫、泡坂妻夫、天藤真を指名します。『鈍い球音』は1971年に青樹社から発行されているようです。日本の野球小説としては今でも一級品です。

角川文庫版を古本屋で探すのは絶望的でしょうが、青樹社の新書版や創元推理文庫版ならアマゾンやスーパー源氏に出ています。野球ファンの間ではあまり有名ではないようですが、ミステリーファンには評価が高いはずです。

万年最下位の東京ヒーローズ球団を就任1年目で一躍リーグ優勝に導いた桂監督が、日本シリーズの2日前に「ほとんど居なくなって」しまいます。桂監督不在で3連敗を喫した東京ヒーローズですが、竹山監督代理も第3戦後に「肉体的に行方不明」になります。

3勝3敗で迎えた第7戦当日の早朝、今度は桂監督令嬢?が「頭から足のさきまで」いなくなります。連続失踪事件です。

さて、代理失踪のあと、選手の投票によって臨時監督代理を引き受けた立花コーチは、スタメンから外れることの多かった長塚というベテラン選手を第4戦の7番打者に起用します。

初打席では三球三振だった。2度目のこの打席でも第1球の外角速球は茫然と見送り、2球目のチェンジアップのカーブを猛然と振ったが、バットと球の間はボーイング727が通れるぐらい空いていて、おまけにぶざまにひっくりかえった。
 砂だらけになって立ち上がった彼は「畜生」と唸り、目を血走らせて打席へ入り直した。その力んだかっこうを見て、投手の峰岸はちらり白い歯を見せた。
 <もう一ぺん、踊らせてやろうか>
 ふと軽い気持で、捕手の直球のシグナルに首を横に振り、意表をつくつもりで同じカーブを投げたのが致命傷になった。それがこの古狸の罠だったのだ。
 きれいにバットが出て、球は左中間へ転がり、顔色をかえて振り向いた峰岸の目のまえで、長塚は二塁ベスに突っ立って、ニヤッと笑ってみせた。
 「すまねえな。ストレートは打てそうもないから、ちょっと古い手を使わせてもらったんだ」
 (176-177ページ)
まあ、三味線は昔からある「古い手」なのでしょう。ただ、やはり三味線が似合うのはベテラン選手であって、三味線と「初歩的」とはどうも合わないような気がします。

野球とはそういうゲームだよなあとしみじみ余韻に浸れるのがラストシーンですが、ネタバレは避けなければなりません。

外部リンク
 横町の名探偵>天藤真著作リスト

0 コメント: